いせえびの麻雀備忘録

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【本】甲斐谷忍新作麻雀漫画『無敵の人』第一話感想―甲斐谷先生、こんなにガチでいいんですか?

LIAR GAME』の甲斐谷忍が週間少年マガジンに麻雀漫画を新連載!

 2015年12月、麻雀漫画ファンの間に衝撃が走った。

 なんと、週間少年マガジンに麻雀漫画が連載されることになったのだ。マガジンに麻雀漫画が連載されるのは『哲也―雀聖と呼ばれた男』が2004年に連載終了して以来、11年ぶりのこと。週間少年誌全体で見ても、チャンピオンのギャンブル漫画『ギャンブルフィッシュ』で麻雀を題材としたゲームがあったくらいで、麻雀をメインの題材としたものはここ最近存在していなかった。

 しかも、作者は甲斐谷忍。『LIAR GAME(ライアーゲーム)』ONE OUTS(ワンナウツ)』等の名作頭脳戦漫画を輩出してきたヒットメーカーが、麻雀漫画を引っさげて少年漫画の世界に飛び込んできた。それがこの『無敵の人』である。これには期待しないほうが無理というもの。

第一話の簡単なあらすじ

 舞台は麻雀が大流行している現代日本(この設定は咲に通じるものがある)。この世界では「雀仙」というオンライン麻雀サイトが大人気で、その運営会社であるブイラインの社員であることは高い社会的ステータスを意味していた。

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               どう見ても天鳳

 主人公の順平はこのブイラインの掃除バイト。妹と二人の貧乏生活から脱出し、憧れの正社員になりたいと日々思っていた順平は、ある日一攫千金の噂を耳にする。

 それは、「不正行為をしていると思われるプレイヤー"M"の不正の証拠を押さえれば300万円」というものだった。

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            つのはこんなこと言わない

 "M"は320戦無敗という驚異的な記録で雀仙にたどり着いたプレイヤーである。その超人的な記録に対し、他のユーザーは羨望の目を向けるのではなく、「どうせイカサマだろう」と懐疑的だった。そのため、"M"の成績への不信が雀仙自体への不信に繋がることや、"M"から不正の方法が流出することを恐れたブイラインは、その不正行為に対して懸賞金を賭けたのであった。

 順平はこれを絶好のチャンスと捉え、"M"の不正を暴こうと決心する。そして、ブイラインの社長に掛け合い、不正を抑えた暁には正社員への登用を約束させる。

 そんな順平がファミレスでバイトをしていたある日、ノートパソコンで麻雀をしている少年を見つける。その画面を覗きこむと、なんと"M"その人であった。

 順平はなんとか不正を暴くため、友達になろうと少年の家に通いこむ。しかし、"M"の姉からその超人的な強さの理由と悲しい過去を聞かされ、順平は"M"の不正を疑い売ろうとしていた自分の浅ましさに気づかされる。そして、"M"と本当の友達になろうと順平は決意する。

 以上が第一話の簡単なあらすじである。(最新号の内容であるため、核心的な部分には触れないでおく)

感想―「面白いけど、ガチすぎない?」

 まず所見での感想は、「かなり面白いけど、これ麻雀知らない人がついていけるの?」というものだった。

 なにしろ、"読み"が本格的。強引なところはあるものの、ちゃんと理屈を積み重ねた読みをしている。

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              この後、さらに解説は続く

 しかも、このコマを見ても分かる通り、麻雀用語を説明なしにバンバン使う。麻雀のルールを説明するどころか、平気でイーシャンテンや単騎といった用語を使うのだから、一般読者に足並み揃える気がないことが伺える(なお、初期の『咲』ではコマ外で説明があったが、本作品では一切ない)。

 これに関しては、麻雀ファンと一般読者の両方を向くことで中途半端な立ち位置になることを避けたのだと考えられる。例えば、『哲也』の場合は一般読者にウケるように、わかりやすい必殺技やハッタリの効いた演出をして盛り上げるという方向性を選んでいた。一方で、『無敵の人』は第一話からこれでもかと言うほど理詰めで闘牌を書いている。ここらへんの勝ちへの"理"を妥協せずに積み上げていくスタイルはさすが甲斐谷先生といったところ。

 闘牌描写をしっかりしてくれるというのは、麻雀漫画ファンとしてはたまらないところ。しかし、さすがに一般読者すべてを置いてけぼりにしっぱなしというわけにはいかないだろう。

 この点について、作者はインタビューで次のように答えている。

あくまで漫画なので、漫画としてのおもしろいものを描くことが第一。だけど、なまじ麻雀や競馬のおもしろさを知っていると、マニアックに押し過ぎて、意味がわからなくなってしまうことがある。

  そして、だからこそ「基本は少年誌らしく」行くとしている。今後は二人の友情にフォーカスしていくようなので、ストーリーの本線は一般読者にもわかるような友情物を、闘牌部分は麻雀ファンに向けたコアな描写をしていくものではないかと思われる。

今後の見どころ―"必勝の理"をどれだけ作れる?

 個人的な今後の見どころとしては、"必勝の理"をどれだけ作れるかというところにあると思っている。"必勝の理"とは、「こういう理由があるから、こういう選択肢を取れば必ず勝てる」という理屈のことである。

 これまでの作品を見れば分かるように、甲斐谷忍天才が理によって勝ち続けるという作風を得意としている。本作『無敵の人』もその方向性を歩むものと思われる。

 しかし、麻雀において"必勝の理"を組み立てることは非常に難しい。言わずもがななことであるが、麻雀は運の要素が非常に強い。そのため、"かなり確度が高い読み"をすることが可能であったとしても、"必勝=100%"の読みをすることは簡単ではない。両者の差は途方もなく大きい。

 しかも、それをマニアックになり過ぎず、かつ週刊連載という形で展開していかなければならないという制約まである。この制約も非常に大きい。

 一つの解決策として、特殊な状況下での対局を増やすというものが思いつく。これは、特殊ルールを採用した麻雀や、なんらかの縛りを受けての対局や、相手がイカサマをしている状況など、通常の麻雀と異なる状況での勝負を作中で増やすというものである。この場合、通常の麻雀に比べて不確定要素を減らすことが可能になる上、漫画としてのハッタリも効かせやすくなる。

 週刊連載で、一般読者にも楽しめるようにしながら"必勝の理"を組み立てる。ただでさえ難易度の高いことを、厳しい制約下でどうやって成功させるのか。次回以降の期待値も高い、非常に面白い新連載だった。

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